1975年12月11日、新日本プロレス・蔵前国技館大会でアントニオ猪木がNWF世界ヘビー級王座をかけてビル・ロビンソンと対戦した。
ロビンソンは1968年4月に国際プロレスに初来日を果たし、外国人エースとして君臨、その後国際プロレスとの契約が切れた後はAWAへと転戦、そしてビリー・ライレー・ジムの先輩であるカール・ゴッチが新日本参戦を薦められ、ロビンソンの新日本参戦が決まった。ゴッチは旗揚げから新日本の外国人選手のブッカーを務めていたが、ゴッチがブッキングする選手は無名の選手ばかりで、新間寿氏からも不評を買っており、この頃にはWWFやNWFとも提携ルートを開拓していたこともあって、外国人ブッカーとしてのゴッチの役割はなくなりつつあったことから、ロビンソンはゴッチとって初めてブッキングすることが出来た大物レスラーでだった。二人は昭和46年3月29日、猪木が日本プロレス時代、ロスサンゼルスでUNヘビー級王座を奪取して帰国する際に、同じ飛行機に国際プロレスに参戦するゴッチとロビンソンが同乗しており、その際に二人は始めて顔を合わせたプロレス談義に華を咲かせ、この頃からロビンソンはゴッチが育て上げた猪木という存在に興味を抱いていた。
猪木戦へ向けてしっかり調整してきたロビンソンは「闘魂シリーズ第2弾」に特別参加し、国際プロレス時代何度も対戦したストロング小林を始め、星野勘太郎、山本小鉄、永源遥を立て続けに連破するが、この頃の猪木はリング外で苦境に立たされていた。話は遡って9月29日、ジャイアント馬場の全日本プロレスがNWAの全面協力を得て、総当りリーグ戦である「オープン選手権」の12月に開催を発表。参加選手に関しても国内外問わず、広く門戸を開放を文句に、全日本と提携していた国際プロレスだけでなく、かねてから馬場に対戦要求をしていた猪木の新日本にも参戦を呼びかけていた。猪木も"これは馬場が仕掛けた罠だ"と察知して、新日本への正式な参戦申し入れがないだけでなく、年末の日程も既に決定していることを理由に参戦を拒否しつつ、全日本のやり方を非難する。いつもなら猪木が事前に全日本側に話し合いをせず、一方的にvs馬場をアピールし、馬場が避ければ猪木が逃げたとアピールしていたが、今回は馬場から仕掛けられ逆の立場となってしまった。
しかし馬場の仕掛けた罠はこれだけではなかった。10月21日に力道山未亡人である百田敬子さんと、力道山家の後見人である山本正男氏が会見を開き、新日本蔵前大会の同日に『力道山追善13回忌追善興行』を武道館で開催を発表、山本氏は全日本や国際だけでなく新日本にも参加を呼びかけ、猪木に対して力道山の弟子として蔵前大会でのロビンソン戦をキャンセルして武道館大会への参戦を要求、山本氏は猪木に事前交渉しており、新日本の興行をキャンセルしてまで参戦することを約束していたことを明かす。『力道山追善13回忌追善興行』には全日本や国際プロレスは当然参加を表明したが、日本テレビで放送されることから、表向きは力道山家の主催興行なれど、実質上は全日本の興行であることは明白だった。そして山本氏は会見の1週間後に、参戦表明をしない猪木や新日本に対し約束を破ったとして「猪木は力道山の恩を忘れたバカ野郎だ!」と非難する。
猪木は10月9日蔵前大会で行われたルー・テーズ戦の後で山本氏とは会い事前交渉はあったことは認めていたが、『力道山追善13回忌追善興行』に関してはロビンソン戦が決まっているとして断っていた。しかし山本氏は「どうしても出ろ!」と譲らず、交渉は決裂していた。元々新日本蔵前大会は『力道山追善13回忌追善興行』より先に決定していて会場も押さえており、テレビ中継の日程もあって今更キャンセルできなかった。馬場はそれを利用して後発の強味を生かし力道山家を動かして『力道山追善13回忌追善興行』を計画し、新日本の蔵前大会の同じ日にぶつけてきたのだ。猪木や新日本もおそらくだがこれも馬場や全日本が仕掛けた罠だと察知していたと思う。
猪木は山本氏からバカ野郎呼ばわりされたことで腹を括り「力道山先生が墓の下で一番喜んでくれることは一体何か考えてください、それは先生が植えつけたプロレスリングを栄えさせることですよ。私はロビンソンとの試合で、絶対に力道山先生に喜んでもらえる試合をやる自信はある。武道館の追善興行か、私とロビンソンの試合と、どちらかが本当の追善試合になるかは、ファンの皆さんに判定してもらえればいいと思う」と答え、興行戦争を決意、正式にオファーを断るが、それに対して日プロOBの芳の里氏は今まで散々馬場への挑戦をアピールしてきた猪木に対し、全日本から門戸を開いたのにも係わらず、参戦してこない猪木を非難、敬子未亡人と山本氏は自身の名で「猪木には今後、力道山門下生を名乗ることは許されない」と破門を通告するが、馬場の仕掛けた罠はこれだけではなかった。(続く)
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